09/06/24 (6/26追記)
皆さん、こんにちは。

『時事短評』という偉そうなものを発信している割には、私は新聞もテレビも、あまり熱心に見ません。
昨日、会社に溜まった業界紙を点検していると、次のような記事がありました。

「日刊工業新聞」、6月18日号です。
17日にJP労組(日本郵政グループ労働組合)の全国大会が仙台市内でありました。西川善文日本郵政社長は挨拶で、「社長続投に強い意欲を示した」と、これは各メディアが伝えました。西川氏に好意的な伝え方ではなかったように思います。

日刊工業新聞はそれに加えて、次のように伝えています。

山口(義和JP労組)委員長は大会前日に行なった会見で、辞任を求める鳩山邦夫前総務相との争いに勝った西川社長について「労組としては続投には大歓迎だ」と最大限の表現で西川氏支持を表明。大会のあいさつでも「来年4月からは変革期に移行する。変革期では日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の上場が予定され、JP労組も自己変革が求められる」と述べ、西川社長が執念を燃やす金融2社の上場に協力する姿勢を示した。

このような報道は、一般の、新聞・テレビにおいて、為されていたでしょうか。


                    (「変革期」=日刊工業新聞2009.06.18)

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(6/26追記)

今日の産経新聞【主張】は、
「日本郵政報告書 民営化に逆行ではないか」
と言うものです。
“報告書の大きな柱は、新たに「経営諮問会議」を設けることと、宿泊施設「かんぽの宿」事業を当面、継続する点だ。”
と、その2点を取り上げています。
「かんぽの宿」については、

かんぽの宿の売却問題も不透明になった。2400億円を投じた事業が毎年赤字を計上しているため、郵政民営化法で平成24年9月末までの売却が決まっている。ところが、日本郵政は23年度末までにかんぽの宿の黒字化を達成すると自らたがをはめてしまった。

と、あたかも西川社長と現執行部がそうしたかのような書き方ですが、これこそ、鳩山邦夫前総務大臣が現場の進行を職権で阻止し、大臣権限で指示したものではないですか。鳩山さんが更迭されたからと言って、大臣指示が消える訳ではありません。職権とはそうしたものでしょう。新大臣が鳩山指示を取り消さない限り、現場はそれに従うしかないのです。

そもそも「かんぽの宿」“入札”に不透明なところがあったというのなら、衆人監視のもとで「再入札」すれば良かったのです。それだけのことであり、それがスジではないですか。そうすれば、オリックスの提示した価格の正当性も検証できたのです。オリックス以上の価格が出なかった可能性も十分あると、私は思います。それが分るから鳩山さんは再入札を命じず、方向そのものを変えさせたのではなかったでしょうか。

「かんぽの宿」はどのような状況にあるのか。上記【主張】にもありますように、

かんぽの宿の売却問題も不透明になった。2400億円を投じた事業が毎年赤字を計上しているため、郵政民営化法で平成24年9月末までの売却が決まっている。

そういうものです。その赤字がいかほどのものかと言えば、竹中平蔵元総務大臣は産経新聞3月16日号において、次のように述べています。正に当事者の言葉ですから、嘘はないでしょう。

民営化決定の当時、かんぽの宿は105カ所、うち61カ所が運営収支(償却前)の段階で赤字、償却後はすべて赤字という信じがたい内容だった。つまりかんぽの宿は、地元への政治的な利益誘導や利権確保のために採算を度外視して作られたものであり、正真正銘の「不良資産」なのだ。だからこそ5年以内の処分が法律で義務づけられた。持っているだけで赤字がかさむものを一刻も早く処分するのは、当然の経営判断でもある。

自由な市場という観点から言えば、そもそも「かんぽの宿の売却価格が安すぎる」という発言そのものが、常識を外れている。かんぽの宿は、かつて年間100億円超もの赤字を出していた。これがかなり改善されたが、それでも年間40億円の赤字を計上している。資産の価値は、それが生み出す収益の割引現在価値で決まる。そんな事業に100億円というのは、売り手から見ればむしろ相当よい条件といえよう。入札をやり直すことになったが、その間の機会費用まで考えると、今回の事案で実質国民負担が増えることはまず間違いない。何より、資産価格は何で決まるかという市場経済のイロハが理解されていない点に、政策当局への絶望的な不信感が広がる。

もう一度「日刊工業新聞」の記事に戻りますと、

JP労組の労使協調路線は「かんぽの宿」問題も引き起こした。JP労組は、従業員雇用維持を含む事業一括譲渡を条件にオリックスへの売却を容認していたからだ。職員640人の当面の雇用確保でホットした労組側にとって、鳩山氏の猛烈な反対は「天から降ってきたような災難」(組合幹部)だった。

そしてこのJP労組の労使協調路線(民営化推進路線)にそっぽを向き、今もなお会社側と激しく対立しているのが、「全国の郵便局長で構成する全国郵便局長会(全特)」です。世襲で郵便局長を継いできた人々であり、旧田中派と強い繋がりがあります。鳩山さんは田中角栄氏の秘書として、政治活動を出発した人です。

オリックスへは、「かんぽの宿」施設(不動産)のみを売却したのではないのです。今時、640人の雇用を引き受けることがどれほどの負担、リスクか、経営者の端くれである私には、よく分ります。
鳩山さんを正義の味方とし西川さんを悪玉とするようなマスコミ報道を鵜呑みにしては、ことの本質が見えないでしょう。鳩山さんの動機は「政治的」なものであったと思います。東京中央郵便局の建設を中断させたことも、鳩山さんの政治的パフォーマンスだったと思います。

上の私の推測を裏付けるような記事がありました。長いですが引用します。

【産経新聞】2009.01.18
総務相、かんぽの宿視察「譲渡急がず経営努力を」

日本郵政の「かんぽの宿」70施設のオリックスグループへの一括譲渡問題で、鳩山邦夫総務相は17日、「日本郵政は各施設が黒字になるように経営努力をするのが本来の仕事だ。それでも赤字の施設は廃止か民間に売るしかない」と述べ、法律で決められた平成24年9月の売却期限までは日本郵政が経営努力を尽くし、その間譲渡しないように求めた。視察した大分県日田市の「かんぽの宿 日田」で記者団に語った。

鳩山氏は、かんぽの宿の実態把握のため私的に日田市を訪問。「地域文化の中で生きていくかんぽの宿であってほしい」として、地域振興のために地元資本への個別売却が望ましいとの考えを重ねて表明した。
日田の施設については固定資産の評価額を約15億円と指摘し、「本当に全国70施設と東京周辺の社宅9棟も含めた譲渡額は109億円なのか」と述べ、譲渡額の安さに疑問を呈した。( *)

70施設のうち、黒字経営を確保しているのは11施設のみ。全体で年間40〜50億円の赤字が発生し、日本郵政の西川善文社長は「持てば持つほど負担になる」と主張している。また一括譲渡なら「売れ残り」の施設はなく、従業員の雇用が確保される利点を強調。公募27社からオリックスを選定した理由も「雇用の確保を一番重視していた」(日本郵政幹部)からという。

これに対し鳩山氏は「オリックスは当面雇用は継続するかもしれないが、あとは好きに料理されるのではないか。かんぽの宿の従業員はすごく不安に思っている」と反論した。( **)

日本郵政は、かんぽの宿を譲渡するための会社分割に必要な総務相の認可が得られないと判断し、当初予定していた1月下旬の認可申請を断念。4月1日の譲渡完了も先送りせざるを得ない状況で、解決の糸口は見えていない。


又、上記産経記事の前日、2009.01.17の毎日新聞は下のように報じています。これは末尾部分のみ転記します。

早期の一括売却にこだわるなら、入札をやり直すしかない。景気悪化に伴い不動産価格も下落しておりオリックス以上の条件が示される可能性は低い。日本郵政は、年間50億円規模の赤字事業の扱いに頭を悩ませている。
…………………………………………………………
■ことば
◇かんぽの宿
日本郵政が所有・運営する宿泊施設で、簡易生命保険の加入の有無に関係なく、誰でも利用できる。郵政民営化に伴い12年9月末までに譲渡、または廃止することが法律で定められた。70施設のうち59施設は赤字で、事業全体で年間40億〜50億円規模の赤字が続く。


*  これは、ここで述べたように、譲渡するのは不動産のみでありません。640人の従業員の職場キープが条件なのです。そしてそれが売る方にしては如何に重大な条件か、買う方にしてはどれほどの覚悟を要するものか、経営をしたことのある人間なら、すぐ理解できることです。

** だからこそJP労組幹部の、“職員640人の当面の雇用確保でホットした労組側にとって、鳩山氏の猛烈な反対は「天から降ってきたような災難」(組合幹部)だった”(前掲)という記事になるのです。労組が不安を抱いたのは鳩山氏にであって、西川氏に対してではありません。

今も「かんぽの宿」は、年間数十億円規模の赤字を出している訳です。それを一刻も早く切り離し、基幹業務に集中して立派な民間会社になろうとすることは、西川さんの「役目」であります。「一括販売」というのは、ごく普通の商活動です。良品だけが売れ、不良品が売れ残れば、本当の収支は不良品が売り切れるまで確定しません。癌の手術ミスで、悪細胞を取り残すようなものです。

私は鳩山邦夫前総務大臣こそ、個人的な野心のために国民の利益を無視した、要注意人物と思います。

 

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