[資料]
[毎日新聞] 2013年11月2日
社説:NHK経営委員 限度超えた安倍カラー


  政府はNHK経営委員5人の国会同意人事案を衆参両院に提示したが、新任4人はいずれも安倍晋三首相と近い(1人は再任)。政権の思惑が露骨な人事とみられる。来年1月には松本正之会長の任期が満了し、後任人事が注目される。権力に距離を置いてこそ、公正で公平な公共放送の役目を担えるはずだ。

  経営委員会はNHKの最高意思決定機関で、執行部の上に位置して、事業計画や毎年度の予算を議決し、会長を任命する権限を持っている。
  経営委員は12人。衆参両院の同意を得て、首相が任命する。選任にあたっては放送法で「公共の福祉に関し公正な判断をすることができ、広い経験と知識を有する者」「各分野及び全国各地方が公平に代表されることを考慮しなければならない」と定められている。任期は3年。委員長は委員が互選する。

  今回の人事案に挙がっている新任の4人は安倍カラーが濃い。哲学者の長谷川三千子さんは保守派の論客で、昨年9月の自民党総裁選で安倍首相を応援した。作家の百田尚樹さんもやはり総裁選で安倍首相を応援し、首相就任後に雑誌で対談して意気投合している。
  日本たばこ産業顧問の本田勝彦さんは首相が少年時代に家庭教師を務め、首相を囲む経済人の集まり「四季の会」のメンバーだ。中島尚正さんは海陽中等教育学校長だが、同校は首相のブレーン、JR東海会長の葛西敬之さんが設立に尽力した。

  菅義偉官房長官は「信頼し、評価している方にお願いするのはある意味では当然だ」と人事案が首相主導で練られたことを隠さなかった。

  安倍首相とNHKの間では、従軍慰安婦に関する番組(2001年1月放送)をめぐって、放送前日に首相(当時は官房副長官)がNHK幹部と面会し、「公平・公正にやってください」と要請したことが05年に発覚した。NHKと政治との関係について注目された事案だった。

  また、今年6月に放送されたTBSの報道番組をめぐっては、公正さを欠いているとして、自民党が党幹部に対する取材や幹部の番組出演の拒否を表明し、翌日に解除する騒動があった。言論には言論で応じる民主主義のルールに反した対応だった。

  政権のメディアに対する態度が問われるのはもちろんだが、NHK経営委員の選び方も議論する必要があるだろう。英国放送協会(BBC)も視聴者からの受信料収入で運営する公共放送だ。経営委員に当たるBBCトラスト委員は「文化・メディア・スポーツ省」に置かれた選考チームが公募する。NHK人事にも、政治介入を防ぐための厳格な仕組みが必要で、今後の課題だ。


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