(6) 「敵の意図は、敵しか知らない」
ノムラカツヨシ

(1)小泉訪朝
(2)小泉再訪朝
(3)小泉再訪朝を評価する

(4)櫻井よしこ論
(5)北朝鮮への経済制裁

(附録1)2004.12.25「産経抄」について
(附録2)平成17年小泉総理年頭記者会見より

2004.12.17
今日夕刻、18:15頃から指宿で行われた日韓首脳会談後の共同記者会見が中継ライブ放送されました。NHKは盧武鉉大統領の発言中、18:50前に、天気予報にしてしまいました。視聴料を払いたくなくなりますね、マッタク。

最近、マス・メディアの報ずる「発言要旨」を信用できない私ですが、公式記録はまだ出ていませんので、とりあえず、
共同通信社、北朝鮮の真意不明 「遺骨」問題で大統領=(共同通信) - 12月17日21時14分更新
をコピーします。盧大統領の、「どんなに考えても北朝鮮の真意がはかりしれない」は、実況でも私は確かにそのように聞きました。

>> 韓国の盧武鉉大統領は17日夜、鹿児島県指宿市内での小泉純一郎首相との共同記者会見で、北朝鮮側が日本人拉致被害者横田めぐみさんのものとして渡した「遺骨」が別人のものと判明したことについて「どんなに考えても北朝鮮の真意がはかりしれない」と指摘、「もう一度慎重に事実を確認する必要がある」と述べ、硬化する日本の世論に慎重対応を促した。
 小泉首相は「まずは誠意ある対応を北朝鮮に求める立場に、理解と支持を頂いた」と歓迎した。
 大統領は「日本の責任ある指導者は、拉致問題解決の『出口』を念頭に置いてアプローチすべきだ。国民は感情で物を言うこともできるが、指導者はそのようにできない」と首相の立場を擁護した。(共同通信) - 12月17日21時14分更新>>

盧大統領はあとで、北朝鮮の「間違いかも知れない」とつけ加えていましたが主体は意図が分からないということで、即ち目的をもってやったこと、しかしその目的が分からない、と言っているのです。

私は前文の、「北朝鮮への経済制裁」において、

2004.12.09
小泉総理の対応はほぼ私の予測通りでした。この件はあとにして、今回のめぐみさんニセ遺骨(松木さんのも併せて)については、北朝鮮の意図が私にはまったく分かりません。日本の鑑定能力については、前回の松木薫さんニセ遺骨で認識しているはずです。今回は明らかに「ニセ」であることが分かることを前提にやっています。念を入れるように二種類入れています。「ニセモノだよ」と告げているような仕業です。こっちにはサッパリ 訳が分からないが、やつらははっきりした「意図」を持っていると感じます。何でしょうね。????

と記しました。
騙そうとしたのではない、まして間違ったのでもない。ある「意図」を持っているのです。その「意図」が分からない。政治家の発言をどの程度額面で受けてよいか分かりませんが、この点の感覚は、私は盧大統領に一致します。

朝日新聞2004.12.17によりますと、
“遺骨鑑定結果「認めぬ」 北朝鮮政府、日本に回答。”
北朝鮮政府は16日、北京の日本大使館に対し、「日本側の鑑定結果を受け入れることも認めることもできない。今後、真相の究明が行われることを望む」と回答したそうです。更に、「鑑定結果は捏造(ねつぞう)」などとする14日の北朝鮮外務省報道官の談話と同趣旨の主張を繰り返した、そうです。

これら北朝鮮の反論は、日本の発表からの間の長さをみても、真剣な主張とは思えません。つまり、まじめにウソをつこうとしていません。 無視してよいものと思います。

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今 、白善Y(ペク・ソンヨップ)氏の『指揮官の条件』を読んでいます。白氏は韓国陸軍最初の大将です。韓国(朝鮮)戦争勃発時の第一師団長、臨津江での熾烈な闘い、二度のソウル陥落と奪回、剣が峰・釜山での攻防を第一線で指揮、鴨緑江直前での中共軍との遭遇。陸軍参謀総長を二度努め休戦会議の韓国代表 。生涯、いわば北朝鮮と命をかけ関わってきた人です。「よど号ハイジャック事件」では韓国・運輸相として指揮にあたり、その見事さは当時の日本航空対策本部事務局長・島田滋敏氏の“「よど号」事件 三十年目の真実”に詳細に記されています。白氏は語ります。

「敵の意図はある程度推測できるとしても、正確なところは敵しか知らないということである。敵もこちらも、たがいに相手の裏をかこうとするし、そこに政治的な目的がからんでくるから、どんなに正確な情報が得られても、軍事的合理性だけで判定するとかならず予測ははずれる。『自由意志を持つ敵の意図は、敵しか知らない』、これはいくら情報収集や伝達の手段が発達しても、決して変わらない基本原則である。」(P.107)

北朝鮮・中共軍の情報はかなり正確なものであった、しかし実践ではしばしば役に立たなかった。

「防御にまわったわれわれが、陣地の前に地雷原や鉄条網といった障害を準備し、それを追撃砲や機関銃でカバーして中国軍を待ち受ける。・・・中国兵はつぎつぎと倒れるが、これで地雷原が無力化され、鉄条網が死体の山で覆われて通路ができてしまう。」
「当初は決死の覚悟をかためた断固たる攻撃に圧倒される思いがしたが、交戦をかさねるうちに中国軍の実態が浮かんできた。かれらは硬直した組織であり、第一線の生の声がまったく反映されていない。決死の突撃も自発的なものでなく、背後に督戦隊の銃口があり、兵士は前にすすむことしかできないのである。要するにわれわれとまったく異なる点は、
人命の価値に対する考え方である。無尽蔵な人的資源をかかえているからか、人を機械の部品同様に考える共産主義の思想からか、とにかく人の命はただ同然という考え方が根底にある。これでは『相手の 立場になって考える』(引用者註・相手の立場になって考え、相手の行動を予測する)ことはできない。」(P.112)

「何を考えているのかまるでわからないし、このような敵では、客観的に観察せよ、論理的に思考せよといわれても打つ手がない。」(P.113)

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2004.12.18
日韓首脳会談の公式文書が発表されれば、再度考えてみます。
昨日のNHK中継では、盧武鉉大統領が小泉さんの代弁をしているようなところもあって(同時に小泉擁護にかこつけた自国民への自己弁明のようなところもありましたが)非常に面白かったです。途中で打ち切られたのは返す返すも残念です。
私がいま沸騰する「経済制裁」論に乗っていけない原因は、ここで自分なりに整理できました。

1.「ニセモノだよ」と告げているような仕業です。こっちにはサッパリ 訳が分からないが、やつらははっきりした「意図」を持っていると感じます。何でしょうね。????(2004.12.09ノムラ)

2.「どんなに考えても北朝鮮の真意がはかりしれない」(2004.12.17盧武鉉大統領)

3.「敵の意図は、敵しか知らない」(白善Y将軍)

そして、「人命の価値に対する考え方 」が彼我では根本的に違うということ。
私たちが相手にしているのは畜生ケダモノなのです。底知れぬ悪です。
「とんでもないこと」を平然と実行できるやつらです。300万人ともいわれる自国民を餓死させて、動じぬ者です。それをよく分かった上で、「制裁」の発動はされるべきです。私の危惧は、制裁を叫ぶ人たちからその声が出ないのです。私はコワイから制裁するなといっているのではないのです。相手がとんでもないバケモノであることをよく認識し、万全の体勢を構築した上でやるべきだと言っています。そして私の観測では体勢作りは進んでいると思います。更にヤマカンですが、日本の体勢が完成する前に、金正日は倒れると思います。

社民党や共産党まで「制裁容認」を口にし始めました。要注意です。彼らが正しかったことは今まで一度もありません。いい機会ですから、私たちは少し冷静になりましょう。昨日の小泉さんの発言も、それなりの威嚇もふくめ、いいものだったと思います。早く全文の出ることを期待します。
 

2004.12.19
「首相官邸」に今回の日韓首脳会談、共同記者会見の要旨がアップされました。詳細を検討するには現在深夜ですので、それ以前の、仲間との対話を記してみます。 討論の場所は大前研一氏主宰の電子町内会です。Yさんは前号
(5)北朝鮮への経済制裁-2004/12/14 06:51 にも登場します。以下は許可を得て、2004/12/20のほぼ全文を紹介致します。( > はノム。イエローがYさんです)

ノムさん、こんにちは、Yです。

> (経済制裁を始めても) 持続できなければ、日本は世界の嘲笑を受けると思うのです。

日本が馬脚を現せば、軍事だけでなく「経済」という唯一の力も、安全保障の観点では張子の虎であることを世界に知らしめることになります。これは恥辱であると同時に、政府に安全保障的な当事者能力が無いことを示すことです。その後の外交オプションを失うことになります。あってはならないことです。

> 犠牲をはらっても守るべきものがあると思います。金正日をやっつける
> 確かな方法があるなら、日本はやるべきと思います(武力行使はできな
> いんですよ。 その条件でそんな方法があるとすれば魔術です)。経済
> 制裁も、本当に日本がやり通すのなら、私は賛成します。

ノムさんの観点を得て、私なりに考えました。
経済制裁と宣言しない経済制裁です。判りやすく言うと公務員の裁量を使ったイヤガラセです。北朝鮮との経済活動を裁量を使って停滞させる。規制を厳密に適用する、許認可を遅らせる等、官僚の最も得意とするところです。


もう既に始まっているかもしれませんが、北朝鮮がらみの企業や貿易に、手続きや税金関係の既存規制を総動員して厳密に適用すれば、実質的に経済活動は停滞するでしょう。世論の支持があれば北の親派が騒いでも大丈夫ですし、世論が変わって元に戻さざるをえなくても、「経済制裁」がなし崩しになってしまう程のダメージは無いと思います。首相の意思があればできます。

911の後にアメリカのイミグレがまさにやっていたことです。


> そうです!
> 正に私の考えに同じです。そして小泉さんも、それをやっていくと思います。
> 来年3月1日施行の「油濁賠償法」は地雷ですね。(船対象だから機雷か)。
> 何も「経済制裁」などと声高に叫ぶ必用はない。小泉さんは逆説の政治家で
> す。 国民の70%以上が支持するという「経済制裁」、それに乗るパフォーマン
> スはしないのです。賢明な人です。 国内法を整備して粛々とそれを適用して
> いく。事実でなく先入観から見る人には、それが見えないのです。先入観から
> でなく事実を素直に見ること、それがジャーナリストの根本と思いますが、日本
> の多くのジャーナリストに欠落している資質が、正にそれだと思います。
> 少し注意してみると北朝鮮系の商社、パチンコや金貸し、水商売に対する摘
> 発が、増えていくはずです。

>> 911の後にアメリカのイミグレがまさにやっていたことです。

> これはちょっと解説して下さいな。

ビザの発行に時間がかかるようになりました。その結果それまで働いてた企業が潰れた場合にグリーンカードを持っていない人は米国内での再就職が極めて困難になりました。ルールを厳格に適用しただけと説明できますが、明らかに意思を持った運用の変更でした。
 

2004.12.21
昨日このページをお読み下さった二人の方から丁寧なメールを頂きました。本当はお二人の全文をここで紹介したいのですが私信なのでそういう訳にいきません。私の返信のみ、アップさせて下さい。

*** 様
野村でございます。メール、ありがとうございました。
私は今、インターネットが世を変える、ということを実感しています。最大の被害者はいわゆるマスコミ、評論家・コメンテーターであると思います。信用されないだけでなく、嘲笑の的にすらなり始めました。
大きな要因は、(インターネットによって)、

1.大衆がナマ情報を取得するチャンスの圧倒的に増えたこと。(政治家の発言“全文”を入手できること、等)

2.そのナマ情報をマスコミ・評論家たちがいかに「料理」しているかを、横に(例えば朝日と読売を並べて)、あるいは前後に(朝日のかつてと今とを)比較するチャンスが増えたこと。 そして更に比較の範囲が、いとも簡単に海外メディアまで拡大されたこと。(各紙「社説」 「コラム」等)

3.平均点では評論家には及ばないがある一点では評論家を遙かに凌駕する「専門家」が、世の中に充満していること。
その、今までは孤立していた「専門家」が、インターネットによって簡単に結びつくことができるようになったこと。当然のことながら一人の「評論家」より10人の専門家の 集団は、より深く、広く、より公平な判断をします。しかも極めて容易にそれを発信・広報できるようになりました。

小泉総理がこれだけマスコミの偏向曲解報道にさらされながら、なお「岩盤」と呼ばれる40%の支持を維持するのは、 上の要因が大きいと私は思うのです。マスコミ・評論家たちはそれに気づいているのかどうか。いずれにせよいくら叩いても落ちない小泉に(つまり影響を与えない自らの発言に)戸惑い、結果としてよりヒステリックになっているのが現状と思います。「経済制裁」の目的が、拉致被害者の奪還救済にあるなら、経済制裁することがその目的にどのように有効なのかを、まず検証しなければならないでしょう。誠実な言論とは、そうしたものと思います。 その分析を見たことがない。不誠実かつ無責任と思います。

ありがとうございました!
朝から長くなりました。

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2004.12.22朝
ここで私の、「北朝鮮への経済制裁」に対する立場をまとめておきます。
1.金正日への攻撃そのものは賛成である。
2.「日本のとり得る経済制裁」によってでは金正日は倒れないと思う。拉致被害者は還らないと思う。
3.日本の方が先に息切れする。国論が分裂する。結果、日本が恥をかくことになる、と予測する。
4.すなわち「経済制裁」は一時の鬱憤ばらし、自己満足にすぎないので、戦術として賛同できない。
5.「経済制裁」をするのでなく、日本の国内法を正しく運用する。
  『改正外為法』
  『特定船舶の入港の禁止に関する特別措置法』
  『船舶油濁損害賠償保障法』(2005.03.01施行)
  『商法』 『税法』 『売春防止法』 『食品衛生法』
  『出入国管理及び難民認定法』
  『麻薬及び向精神薬取締法』 ・・・・

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2004.12.23
産経新聞2004.12.22によると、
「拉致」資料、精査結果 政府、北に回答期限設けず 首相、制裁は慎重
とのことです。
 >>政府は二十一日、北朝鮮が日朝実務者協議で提出してきた安否不明の拉致被害者に関する資料の精査結果を二十四日に公表するが、北朝鮮側に通知した後も、それに対する回答期限は設けない方針を決めた。小泉純一郎首相は二十一日、首相官邸で記者団に「期限を区切るよりもできるだけ早くということだ。相手側に誠意ある回答を求めていきたい」と述べた。<<

この小泉総理の対応は私にとっては予想通り、当たり前のことですから、特に感想はありません。

>>だが、北朝鮮に対する政府の対応方針である「対話と圧力」のうち「対話重視派」(政府筋)の首相は経済制裁を「できればやりたくないと思っている」(首相周辺)とされる。そのため、経済制裁発動に結びつきかねない期限設定は避けたものとみられる。<<

「できればやりたくないと思っている」という報道のニュアンスをどう取ればいいでしょうか。
これは制裁を「やる」と「やらない」の二者択一があって、できれば「やらない」を選びたい、そう総理が思っているということでしょう。
私は小泉総理の中に「やる」オプションはないと思います。これは経済制裁ですよと北朝鮮や世界に告げることは、それこそパフォーマンスです。小泉さんは「黙って」同じ効果あることを進めるでしょう。

「期限を区切る」ことは相手への縛りであることは勿論、こちらへの縛りでもあります。期限が来たとき、如何に新たな状況が出ていようと(例えば中国が公然北朝鮮を支持しようと)日本は上げた手を振り下ろさねばならない。相手を追いつめるつもりが、自分を追いつめることになりかねません。「期限設定は避けた」のでなく、「やるべきでない」のです。

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★☆救う会全国協議会ニュース★☆(2004.12.23)
中国政府の脱北者強制送還に抗議する「12月22日午前11時」国際一斉行動に当たって
「救う会」声明(より一部抜粋)

『拉致被害者全員を救出するには、北朝鮮住民すべての解放、すなわち北の現体制打倒が不可欠である。われわれは、この立場から、国際的連帯の強化を含め、運動を続けてきた。金正日体制を支えようとする者は、すなわちわれわれの行く手を妨害する者である。』

1.私はこの立場を熱烈に支持します。
2.上の目的実現に、「公式に宣言した経済制裁」が有効と思いません。戦術として適切でないと判断します。日本側が「挫折」することが、私にはアリアリです。
3.「経済制裁」を言わなくても同等(あるいは経済制裁を公言することのマイナスを考えれば同等以上)の効果ある方法があります。 小泉さんはそれを実行していくでしょう。言葉でなく行動、具体的に表れて来るものを、素直に見ることが大切です。
4.但し、「経済制裁」を大声で叫ぶ勢力が大量に存在することは、必用なことと思います。それは明らかに有効な作用をして います。(「経済制裁」の声がまるでない状態をイメージすれば明らかです)。
小泉という人がその中で、冷静な言葉を発し続けていることに敬意を表します。又、そうした小泉さんであることを知って、多くが安心して「経済制裁」を叫んでいる面 があるでしょう。これが例えば石原慎太郎さんが総理であれば、経済制裁実行派がこれだけ多いか、私には疑問ですね。

「北朝鮮人民の救済」、金正日を排除した上で、いずれ日本はなにがしかの役割を担うべきでしょう。知らんぷりをするべきでないと私は思います。突然情緒的な言葉を使いますが、隣人愛、というもの、あるいは「情けは人のためならず」ということと思います。日本人のモラルの再生にもつながると考えています。

但し日本国内への受入については反対です。双方にとって良くない結果につながるでしょう。「博愛が迫害の原因になる」、というのは誰かが言ったのか私が作ったのか、そういう考えを持っています。距離を保つことが大切です。つまり「現地において」養生、リハビリを助けるということです。日本は多くの寄与ができると思います。

「救う会」声明の通り、拉致被害者の救済と北朝鮮人民の解放は、並行して実現するものと思います。北朝鮮人民そのものが拉致被害者でしょう。わが国は金正日体制打倒のため、静かでに、確実に、有効な手段を行使してゆかねばならないと思います。

(このページは長くなりましたのでここで終了します。
先の「日韓首脳会談」についてはページを改めたいと思います。)

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